【戦術分析】アルネ・スロット体制のリヴァプール:優勝の翌シーズンに何が起きたのか
2024-25シーズンのプレミアリーグ優勝から一転、2025-26シーズンに5位まで失速したリヴァプールの戦術と要因を分析。スロット監督の4-2-3-1と「トリガー型プレス」の光と影。
2024-25シーズン、アルネ・スロット監督のリヴァプールはプレミアリーグを制覇した。就任1年目でタイトルを獲得したスロットは、クロップ時代の「重金属プレス」を「制御されたシンフォニー」へと進化させた功績を称えられた。
しかし翌2025-26シーズン、同じクラブが**5位(勝ち点60)**でフィニッシュし、スロットは5月末に解任された。優勝の翌年に何が起きたのか——スロットのリヴァプールを戦術的に振り返る。
スロットのリヴァプール:基本システム 4-2-3-1
クロップが採用し続けた4-3-3から、スロットは4-2-3-1へシステムを変更した。最も大きな変化は、ダブルボランチ(2枚のDMF)によって中盤の安定性が増したことだ。
攻撃時の形
サラー ヌニェス ディアス
トップ下(2シャドー的)
ボランチ① ボランチ②
TAA コナテ クアンサ ロバートソン
アリソン
4-3-3との最大の違いは中盤の枚数。2枚のボランチが中央を固めることで、攻撃時にサイドバック(特にTAA)が高い位置を取れる設計だった。
ビルドアップの構造:「3-2ベース」
ポゼッション時、リヴァプールは右SBが中盤へ絞ることで3バック+2ボランチの「3-2の土台」を作る。これによりハーフスペースへのライン破りのパスが通りやすくなり、アドバンスドMFや絞ったウイングへの縦パスが増えた。
プレスの哲学:「ハンマー」から「メス」へ
クロップのゲーゲンプレスは、ボールを失った瞬間に全員が即時奪回を目指す「ハンマー」型だった。スロットのプレスはよりトリガー(引き金) を意識した「メス」型だ。
主なプレスのトリガー
① 相手GKへのバックパス 相手がGKに戻した瞬間、前線3枚がプレスを開始。GKのロングキックを誘発し、セカンドボールを中盤で回収する。
② 相手CBがターンして受けた瞬間 後ろ向きになっているCBへのパスに連動してプレス。特に逆サイドCBへのボールは、前線の2枚で挟み込む動きが整備されていた。
③ 相手のパスミス後 テンポが上がって生まれたミスの瞬間、全体が前へ出る。この部分はクロップ時代のゲーゲンプレスの思想を継承している。
守備時の形:4-2-4プレス
プレス時はボランチ2枚が留まり、前線4枚(サラー・ヌニェス・ディアス・トップ下)がプレスライン。SBは押し上げず、守備ブロックを維持することで「前でハメる、後ろで守る」の二層構造を作った。
この構造が機能した2024-25シーズンは、xGA(期待失点)を前年比で16%以上低下させる成果を生んだ。
2025-26シーズン:失速の要因
悲劇:ジョッタの死
2025年7月3日、シーズン開幕を前にリヴァプールに衝撃が走った。FWジオゴ・ジョッタが弟と共にスペインで交通事故に遭い、帰らぬ人となった。
スロットの戦術においてジョッタはプレス強度とフィニッシュを両立できるキープレイヤーだった。この喪失がチームの精神的支柱に与えた影響は計り知れない。
好調から急落:11月に12位転落
2025-26シーズン序盤、リヴァプールは5連勝で出発した。ところが11月にかけて7試合で6敗という急失速。12位まで順位を落とし、スロットへの批判が高まった。
クラブが正式にスロットの続投を支持すると表明したが、その後も全コンペティションで12試合中9敗という成績が続いた。
4月:二重のショック
4月、リヴァプールはFAカップとチャンピオンズリーグから相次いで敗退した。いずれも大差での敗戦だったと報じられており、わずか10日間の間に2つのタイトルを失う格好となった。
戦術的な問題点:何が機能しなくなったか
① サラーの負荷増大
スロット体制のリヴァプールでは、サラーに守備への参加を強く求めた。前線からのプレス、ポジションに戻る動き——スプリント量が増加した結果、コンスタントなパフォーマンスの維持が難しくなった可能性がある。
2024-25シーズンは機能したこの要求が、2025-26シーズンに入ってプレー強度の低下をもたらしたのではないかと分析されている。
② ミドルゾーンの守備の隙
4-2-3-1が4-2-4プレスへ移行する際の「変形途中」に問題が生まれた。前線4枚がプレスに出た際、中盤との間に生じるスペースを使われるシーンが増えた。特にTAAが高い位置を取った後の右サイドのスペースを突かれる失点パターンが、シーズンを通じて繰り返された。
③ 相手への対策が進んだ
2024-25シーズンにスロットのプレスが成功した理由のひとつは「戦術的な新鮮さ」だった。翌シーズン、対戦相手はトリガーを把握し、バックパスを誘ってからショートパスでかわすパターンを用意してきた。プレスを逆手に取られる場面が増えたことが、守備の脆弱性として表れた。
スロット解任後の展望
5月末、リヴァプールはスロットとの契約解除を発表した。クラブが次の監督に求めるのは「より攻撃的でアグレッシブなスタイル」とされ、プレスではなくボール保持で主導権を握れる監督像が描かれている。
4-2-3-1の整然とした秩序か、それとも4-3-3の流動性か——次の体制がどちらを選ぶかが、アンフィールドの次なる時代を定義する。
🐻 くまおメモ 優勝の翌年に解任というのはサッカーでは珍しくないけど、スロットのリヴァプールに関してはただの「2年目のジンクス」で片付けるのは違う気がする。ジョッタを失ったことの精神的ダメージは戦術データでは測れない部分が大きかったはず。それでも、スロットが1年目に見せたプレスの洗練された形は本当に美しかった。難しいクラブを引き継いで、しっかり自分のサッカーを体現したと思う。
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前線からの守備を軸にするチームが機能しなくなるとき、原因は「走らなくなった」という精神論で語られがちだ。だが実際には、いくつかの具体的な条件が崩れていることが多い。
1. 距離が開く
プレスは、複数の選手が連動して初めて成立する。1人目が追い込んだ先に2人目がいなければ、相手は簡単に外せる。選手間の距離が5メートル開くだけで、この連動は壊れる。負傷者が出て組み合わせが変わったとき、この距離感が真っ先に狂う。
2. 背後のリスクが増える
前から奪いに行くということは、最終ラインを高く保つということでもある。ここを一本のパスで越えられる回数が増えると、守備陣は不安から下がり始める。すると前線との距離が開き、中盤に大きなスペースができる。一度この悪循環に入ると、修正は難しい。
3. 相手が対策を確立する
シーズンが進むほど、対戦相手はそのチームの守備の形を研究してくる。前線からの守備を外す方法——ゴールキーパーを使った数的優位、中盤を飛ばす長いボール、意図的に片側へ寄せてからの展開——は、いずれも既に確立された解答だ。同じ形を続けるだけでは、必ずどこかで通用しなくなる。
4. 蓄積した疲労
前から奪いに行く守備は、消耗が激しい。とくにヨーロッパの大会と並行する日程では、週2試合のペースで同じ強度を維持することは現実的でない。シーズン後半に守備が緩むチームが多いのは、この負荷が積み上がった結果でもある。
監督交代が、必ずしも答えにならない理由
成績が振るわないとき、監督の交代は最も分かりやすい手段として選ばれる。短期的には成績が上向くことも多い。だが、それが持続するかどうかは別の問題だ。
新しい監督が来ても、選手構成はすぐには変わらない。前任者が求めたプレーに適した選手が揃っているなら、まったく違うサッカーへの転換には時間がかかる。とくに、走力を前提に集めた選手とボール保持を前提に集めた選手では、必要な資質が異なる。
したがって、監督交代後のチームを見るときの焦点は「勝ったかどうか」ではなく、次の点になる。
- 前任者の頃から使われていた選手の役割が、どう変わったか
- 新しい監督が最初の移籍市場で誰を求めたか
- 苦しい試合展開になったとき、何を選ぶチームになったか
本当の変化が見えるのは、監督が自分の望む選手を揃えた後——つまり、就任から1年以上経ってからであることが多い。
よくある質問
プレスが機能しなくなるのはなぜ?
選手間の距離が開いて連動が壊れること、背後を突かれる回数が増えて守備陣が下がり始めること、相手が対策を確立してくること、そして疲労の蓄積——この4つが重なることが多い。走る量の問題だけではない。
監督交代で成績はすぐ良くなる?
短期的には上向くことが多いが、選手構成はすぐには変わらないため、持続するとは限らない。前任者が求めたプレーに合わせて集めた選手が揃っている以上、まったく違うサッカーへの転換には時間がかかる。
参考情報
※事実関係は上記の情報源に基づく。分析・評価の考え方は編集方針を参照。




