コラム

なぜユナイテッドは「赤い悪魔」なのか|プレミアリーグ愛称の由来

プレミアリーグの「赤い悪魔」はサルフォードのラグビーチーム、「ビーズ」は学生の聞き間違いが起源だ。全20クラブの愛称を色・産業・動物・伝承の4系統に整理し、イングランドの街の歴史をたどる。

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マンチェスター・ユナイテッドの愛称「レッド・デビルズ(赤い悪魔)」は、実はサッカークラブが自分で考えた名前ではない。隣町サルフォードのラグビーリーグのクラブから借りてきた呼び名だ。プレミアリーグの愛称を一つずつ掘っていくと、そこにはユニフォームの色、街の工場、酒場の看板、そして単なる聞き間違いまでが顔を出す。

この記事のポイント

  • 愛称は色・産業・動物・伝承の4系統に整理できる
  • 「赤い悪魔」はラグビークラブからの借用
  • 「ビーズ」の起源は学生チャントの聞き間違い

クラブ別に愛称を引きたい場合はプレミアリーグ全20クラブの愛称一覧にまとめてある。この記事では並べ方を変え、「なぜその名前になったのか」という由来の系統ごとに読み解いていく。

系統①:ユニフォームの色がそのまま名前になった

最も数が多く、最もわかりやすいのがこの系統だ。19世紀後半のイングランドでは、観客がクラブを識別する手がかりはユニフォームの色しかなかった。名前より先に色があり、色がそのまま呼び名になった。

  • リヴァプール=レッズ(The Reds):全身赤のユニフォームから
  • チェルシー=ブルーズ(The Blues):ロイヤルブルーのユニフォームから
  • バーンリー=クラレッツ(The Clarets):クラレット(ボルドーワインのような深い赤紫)色のユニフォームから
  • リーズ・ユナイテッド=ホワイツ(The Whites):白いユニフォームから

興味深いのは、色から出発しながら別のイメージへ跳躍したケースだ。ニューカッスル・ユナイテッドの「マグパイズ(The Magpies)」は、白黒の縦縞ユニフォームが白黒の羽を持つ鳥カササギ(magpie)を思わせたことに由来する。色の記述がいつのまにか生き物の名前に化けている。愛称が単なる識別記号から、クラブの人格を表すものへと育っていく過程がここに見える。

系統②:街の産業がそのまま刻まれた

プレミアリーグのクラブの多くは、産業革命期のイングランドで工場労働者が作ったチームを出発点としている。その出自が愛称に化石のように残っている系統だ。

アーセナル=ガナーズ(The Gunners)。クラブはロンドン南東部ウーリッジの王立兵器工廠(Royal Arsenal)の労働者によって創設された。クラブ名の「アーセナル」自体が英語で「兵器工廠」を意味する。ただし「ガナーズ(砲手たち)」という呼び名が定着したのは20世紀に入ってからで、当初はアーセナルの荒っぽいアウェー遠征サポーターを揶揄する言葉だったとする説がある。クラブがこれを自らの名として受け入れたのは1910年前後とされる。侮蔑語を誇りに転化した例だ。

ウェストハム=ハンマーズ(The Hammers)/アイアンズ(The Irons)。1895年、テムズ製鉄造船所(Thames Ironworks)の労働者チームとして誕生した。船体にリベットを打ち込むハンマーの音がそのまま愛称になり、エンブレムには交差した2本のリベットハンマーが今も描かれている。

エバートン=トフィーズ(The Toffees)。こちらは工場ではなく菓子店だ。初期のホームグラウンド周辺にあった菓子店、とりわけ「マザー・ノブレッツ(Mother Noblett’s)」がサポーターにトフィーやミントを配っていたことに由来する。現在も試合日には「トフィー・レディ」と呼ばれる女性がピッチを歩き、観客にトフィーを投げ入れる習慣が残っている。

愛称が街の生業と結びついているからこそ、これらのクラブでは「地元を背負っている」という感覚が現在まで濃く残る。

系統③:動物と紋章に託された

エンブレムの意匠、あるいは土地の風景から動物が選ばれた系統だ。この系統の愛称には、ライバル関係という社会的な力が働いている例がある。

ブライトンの「シーガルズ(The Seagulls)」がその典型だ。もともとこのクラブは「シュリンプス(小エビ)」や「ドルフィンズ」と呼ばれていた。1970年代、ライバルであるクリスタル・パレスの「イーグルス(The Eagles)」のチャントをかき消すため、サポーターが海辺の街ブライトンらしい鳥として「シーガルズ」を選んだのが始まりとされる。つまりこの愛称は、敵の存在なしには生まれなかった。

サンダーランドの「ブラックキャッツ(The Black Cats)」は、ウィア川沿いにあった「ブラックキャット砲台」に由来するとされる。ウルヴァーハンプトンの「ウルブズ(Wolves)」は都市名の頭を取った略称であると同時に、エンブレムの狼と重なって二重の意味を持つ。

系統④:伝承と偶然が生んだ異色の名前

最後に、文学・伝説・そして純然たる偶然から生まれた系統を挙げる。この系統の由来が、いちばん物語として面白い。

トッテナム=スパーズ(Spurs)。正式名称の「ホットスパー」は、中世イングランドの騎士ヘンリー・パーシー (Henry Percy) の異名に由来する。馬を駆り立てる拍車(spur)を熱くするほど猛然と戦う人物だったことからこう呼ばれ、ウィリアム・シェイクスピア (William Shakespeare) の戯曲『ヘンリー四世 第1部』に「ハリー・ホットスパー」として登場したことで広く知られるようになった。エンブレムの雄鶏が拍車を付けているのは、この由来を表している。

マンチェスター・ユナイテッド=レッド・デビルズ(The Red Devils)。冒頭に触れたとおり、この愛称の源流はサルフォードのラグビーリーグのクラブにある。同クラブは1934年にフランス遠征で圧倒的な強さを見せ、現地の記者から「レ・ディアブル・ルージュ(Les Diables Rouges=赤い悪魔たち)」と呼ばれた。1958年のミュンヘンの悲劇のあと、チームを再建していた監督マット・バスビー (Matt Busby) が、それまでの「バスビー・ベイブス(若者たち)」よりも威圧感のある呼び名を求め、この名を採用したとされる。悲劇からの再出発と結びついた愛称である点が、他とは重みが違う。クラブの歩みはマンチェスター・ユナイテッド完全ガイドで詳しく追っている。

ノッティンガム・フォレスト=トリッキー・ツリーズ(The Tricky Trees)。ロビン・フッド伝説で知られるシャーウッドの森が「巧妙に入り組んだ木々」と形容されたことと、クラブ名の「フォレスト」を掛けた呼び名だ。

リーズ・ユナイテッド=ピーコックス(The Peacocks)。本拠地エランド・ロードのすぐ近くにあるパブ「ジ・オールド・ピーコック」に由来する。パブの名前がクラブの愛称になるという、イングランドらしい経路だ。

ブレントフォード=ビーズ(The Bees)。1894-95シーズン、ブレントフォードでプレーしていた友人ジョセフ・ゲティンズ (Joseph Gettins) を応援するため、ボロー・ロード・カレッジの学生たちが自校のチャント「バック・アップ・ビーズ(Buck up Bs=Bsをがんばれ)」を叫んだ。これを取材陣が「Buck up bees(蜂たちをがんばれ)」と聞き違えて記事にし、そのまま定着したとされる。100年以上続く愛称の起源が誤記だったというのは、なんとも人間くさい。

愛称は「クラブが何から生まれたか」の記録である

4つの系統を並べてみると、愛称が単なる呼び名ではないことがわかる。ユニフォームの色から来た名前は観客の目線の記録であり、産業から来た名前は誰がそのクラブを作ったのかの記録だ。動物の名前にはライバル関係が刻まれ、伝承や偶然から来た名前には土地の文化と当時の空気が閉じ込められている。

日本のプロサッカークラブが公式に愛称を設計するのに対し、イングランドの愛称はほぼすべてがサポーターや記者の口から自然発生し、クラブが後から追認したものだ。だから公式な制定日を持たないものが多く、由来にも複数の説が並立する。この曖昧さこそが、100年以上かけて名前が育ってきた証拠と言える。

次に試合中継で「ブルーズ」「ガナーズ」「マグパイズ」という言葉が出てきたら、その背後にある工場や酒場や森を思い浮かべてほしい。たとえばチェルシーというクラブの歴史を知ってから「ブルーズ」と聞けば、同じ一語がまるで違う手触りで響くはずだ。

よくある質問

なぜマンチェスター・ユナイテッドは「赤い悪魔」と呼ばれるのか?

隣町サルフォードのラグビーリーグのクラブの愛称を借用したものとされる。同クラブが1934年のフランス遠征で「レ・ディアブル・ルージュ(赤い悪魔たち)」と呼ばれたのが源流で、1958年のミュンヘンの悲劇後にチームを再建していたマット・バスビー監督が、より威圧感のある呼称を求めて採用したと伝えられている。

プレミアリーグの愛称は誰が決めているのか?

大半はクラブが公式に制定したものではなく、サポーターや新聞記者の間で自然に広まった呼び名をクラブが後から受け入れたものだ。アーセナルの「ガナーズ」のように、当初は揶揄する言葉だったものが誇りある愛称に転じた例もある。そのため制定日が特定できず、由来に複数の説が残るクラブも多い。

由来が「勘違い」から生まれた愛称はあるのか?

ブレントフォードの「ビーズ」がそれにあたるとされる。1894-95シーズン、学生たちが叫んだチャント「Buck up Bs」が「Buck up bees」と聞き違えられて報じられ、そのまま定着したという経緯が伝えられている。

参考情報

  1. Every Premier League Club’s Nickname & Origins | GiveMeSport
  2. From Gunners to Red Devils: Find out the origins of every Premier League club’s nicknames | News9live
  3. Why Manchester United are Called ‘the Red Devils’ | GiveMeSport
  4. Explaining why Tottenham are called ‘Hotspur’ | GiveMeSport
  5. Brentford FC aka ‘The Bees’; A History of the nickname | VAVEL
  6. Leeds United nicknames - Why are Leeds known as The Whites and The Peacocks | MOT Leeds News
  7. Every Premier League Club’s Nickname & Origins | PremierLeagueNow
  8. List of Football Club Nicknames | Football-Stadiums.co.uk
  9. Sunderland A.F.C. | Wikipedia

※愛称の由来には諸説あり、本記事は上記の情報源で確認できた説に基づいている。系統の分類は当サイトによる。